2022年11月22日火曜日

靴選びは難しい2

 靴は難しい その2


 黒のストレートチップ(合成)がだいぶくたびれてきたため、追加購入して雨の日や地面のコンディションが読めない日に活躍してもらおうと、新しい靴の物色を始めました。黒ストはインフラですからね。


 選んだ基準は、ここにあるような基準をクリアしたうえでの、履いた感触です。革靴は、履き皺つけて、何週間と履いてやっと合うか合わないかが分かるものだと思いますが、店舗で試しに足を入れて、痛みを感じる、足の指が上下重なる、甲に隙間を感じる、かかとが緩いなど、ダメだと思ったものは絶対にダメです、絶対に合いません。


 では、どんな感触がよくてどんな感触が悪いのか。基準が体感を主たる要素とするため、大変難しい問題ですが、いろいろ試して手本となる良い感触を体感するほか無いように思われます。多少値が張る商品でも、店員さんに頼めば履かせてもらえるはずです。


 私の足の特徴はざっくり言えば24cmの甲薄。メーカーによっては店舗での在庫がなく試すことが出来ないこともありました。試すことができたのは、以下のとおり。


現在:リーガル(不明)                     23.5 ゴム底 厚手靴下

①ユニオンインペリアル(不明)               24.5 ゴム底 薄手靴下

②三陽山長(R309)                     24.5 革底   薄手靴下

③リーガル(01AL)                               24  革底   厚手靴下

④シェットランドフォックス(カーディフ)24         ゴム底 薄手靴下


 雨の日用移行予定の靴は、リーガルの合成です。恐らくセメント製。値段はセール対象で2万円切っていたかしらん。幅が合わないだろうということで、ワンサイズ落とした23.5でフィッティングしたのをおぼろげに覚えています。靴下は、フィッティングの際にたまたま厚手のものをはいていて、それで収まりよく入ってしまったため、夏だろうが冬だろうが厚手の靴下ではいていました。サイズが合わないと怪我の恐れがあるのは経験上わかっていたようです。


 そのときに革底の靴も試した(おそらく01DR)はずですが、特に感動はありませんでした。後にまさかこんなことになろうとは、もちろん思いもよりませんでした。


①ユニオンインペリアル(不明)24.5


 甲が低い設計という評判みて、24cmを試したかったのですが、サイズがなく、24.5を試しの試しのとして履きましたが、特に3の甲(脛に近い方)がかなり高かったという記憶しかありません。店員さんには別メーカーのパターンオーダーを進められました。


②三陽山長(R309)24.5cm


 はじめ、比較的安価な防水シリーズを試そうと店員さんに話しかけたのですが、「お客様の足ではこの靴は大きいと思います」と即座にコメント。いつ足を見たのかわからない、もちろん靴は履いたままである――。そして出てきたのが、このR309友之助24.5相当。自分の足は24だとばかり思っているので、24.5が出てくるのはかなり違和感があったのですが、履くとこれがジャストサイズで2度目の驚き。目計測に狂いはありませんでした。


 甲はしっかりと押さえられ、かかとが緩いということはありません、指先が靴にあたることもなく、足の側面底面上面には革靴特有の程よい圧迫感、「ぴったりですね・・」と言うほかありませんでした。当たり前のように痛みなどありません。ただ、このメーカーの製品は高価ため、即購入ということにはなりませんでした。


③リーガル(01AL)24cm


 ザ・マスター・リーガルで知られる01AL。いまどき店舗限定品という珍しい靴ということは知っていたので、せっかくだからと履いてみて、そのまま候補になった1足です。

 厚手の靴下でジャストサイズと、甲薄の私とはまず合うことはない同社の製品としては小ぶりな設計ではないでしょうか。幅表記がありません(おそらくわざとでしょう)が、カーディフよりは大きいので、おそらくシングルE。しかし、特筆すべきは、はき心地です。幅表記がないのは、ぜひフィッティングをして履き心地を知ってもらいたいからだ。②のR309と同様(甲はしっかりと押さえられ、かかとが緩いということはなく、指先が靴にあたることもなく、足の側面底面上面には革靴特有の程よい圧迫感)の特徴を備えるとともに、土踏まずからかかとにかけての独特の感触は、一度はいたら忘れられません。全体的なやわらかな感触も触れておくべき点で、ジャストサイズというよりは、靴下のようにフィットすると書いたほうがいいかもしれません。

 やはり、近辺に在庫のある店舗があれば、絶対に試すべきです。履き心地こそこの靴最大の武器です。履き口が狭いのも特徴。履きにくいですがフィット感とトレードオフなら多少履きにくいほうが良いのでしょう。


④シェットランドフォックス(カーディフ)24cm


 既に履いているダブルモンクの同じ形の1足。足にこれといった問題なく今日に至るため候補になりました。本来ならこれを買っておしまいなんですが、変な欲が出るものですね。

 リーガル系列のラインナップでは最も甲が低いカーディフの特徴は、土踏まずのホールド感。他は頑丈な革靴のイメージ通りの履き心地で、硬いのですが、造型を工夫して足に無理ないようにしているのではないでしょうか。これはこれで初めて足を通してみると、土踏まずに知らない感触があって感動するのですが、感動の強さ③には劣ります。要所と全体感を仕上げた③と要所をのみを押さえた④の差といってもいいのでしょうか。


 この書きぶりから分かるように③を選びました。革底なんて、フラッグシップ・モデルなんて、自分には無縁のものだと思っていましたが、わからないものですね。

2022年10月27日木曜日

靴選びは難しい

 靴選びは難しい

 年齢も重ねてきたので足元も小奇麗にしようと靴を選ぶことにしました。サイズの合わない靴は足の健康を害とのことですが、私は足が小さくまた甲が薄いので履く靴が大幅に制限されています。リーガルさんで測ってもらったところ長さが24.cm5ほどで幅がD。買い求めるなら24cm(6)のDが妥当なところです。

 百貨店等で複数試しましたが、スコッチグレインは甲が薄いとされるインペリアルプレステージの24cmを試して「23.5がいいだろうという」助言をいただき、ユニオンインペリアル(おそらくNU171)では24.5cmの在庫を試したところ、「24cmでも甲は埋まらないだろう」とのこと「靴は難しい・・」というコメントが印象的でした。オールデンなど海外のブランド物は甲が薄いらしいですが、100,000円を超えるなど予算の問題で検討していません。この中ではスコッチグレインが革製の靴下をはいているみたいでおそらく良かったのですが、最適サイズを地方在住ではサイズを試す機会がないため今日に至ります。店舗はやはり東京に集中しており、機会があれば行脚したいところですが、現実問題として地方では頼りになるのは全国的な販売網を持つリーガルだけなのかもしれません。

 選んだのはシェットランドフォックスのカーディフ。シェットランドフォックスはリーガル傘下のブランドです。近くにリーガル店舗があれば在庫を取り寄せてくれて試すことができます。カーディフはリーガル傘下では最も甲が薄いと思います(サントーニは試したことがないので)。甲薄は少なくとも最初に当たるべき一足です。後にリーガルのパターンオーダーで24cmDの靴を作ってもらいましたが、カーディフはそれよりも薄い。甲が薄い一方で、土踏まずの部分は細くそれ支える履き心地があり、指の部分は多少ゆとりがあるのも特徴です。

 結局、カーディフでも片足にタンパッドを貼っていますが、履けるだけ良いと思わなければいけませんね。パターンオーダーの靴はタンパッドと厚手の靴下で運用しています。


手入れ

 上手げブラシで汚れを落として、リムーバーをつけた適当な布で靴をこすり前回塗ったクリーム類を落とし、デリケートクリームを入れて4分ほど置き、クリームを入れて5分ほど置き、豚毛ブラシでクリームをならした後、適当な布で余分なクリームを取って完了。百聞は一見にしかず。



 手入れ道具は結局総額一万円くらいになったんでしょうかね。リーガル(コロンビア)の汚れ落としやサフィールのクレムはなくなる気配がなく、ブラシ類も摩耗には時間がかかりそうですが、「適当な布」の消費は消耗著しいですね。5回くらいで汚れまみれになります。一枚300円強は何かいい方法はないものか。

2021年12月17日金曜日

エピクトテス /『人生談義』


  エピクトテスがローマの哲学者というだけで手に取った本。全二巻。広告の帯に『自省録』のきっかけとなったという触れ込みや「体を縛っても精神は縛ることはできない」みたいな感じの文句にひかれたのかもしれない。


 『自省録』、特に好きでもない本。ひたすら倹約と自己研さんに努める王のメモ書きからは、高い道徳性と、道徳そのものの完成度の高さを感じられるものの、実践に欠け、怠け癖のある私とは相性が良くなかった。どこかで見かけたこの本への批判、これは王専用の倫理学、被支配者にとってみれば働かすことを禁じられた自由意志を、消費そのものが不可能な者達を倹約の掟で縛るものなのであって、つまるところ、あってもなくても一緒なのだ、という一文を検証もなく暗記している。不意に現れた復讐の機会が果たされたという爽やかな気分が、記憶を持続させているのかもしれない。


 エピクトテスについて回る出自の話、「奴隷出身の哲学者」という触れ込みはあまり信用ならないものであるように思われた。今まで奴隷が何人存在したかは分からないが、本当の奴隷でもそうでなくても人の言葉はまず後世に残らないから。上で確認したように、頭のいい奴隷、考える奴隷というのは、面倒な奴隷と相場は決まっているので、エピクトテスは支配層からは常に監視を受けていたのではないかと思われる。その監視の中で、エピクトテスは文学の域に高められた弁舌でもってストア派の哲学を歌い上げた。


 エピクトテスの講義の記録たるこの本での彼は実に雄弁で、節制を解き、相手の胸に手を当てさせる手腕の見事さはキケロー以下のローマ弁論術仕込みの賢者のような物言いは見もの。贅沢は良いことだろうか、胸に聴いて見たまえ、他人の妻と寝てもいい事だろうか、自分の胸に聴いて見たまえ。手柄を一人占めしてもいいものだろうか、自分の胸に手を当てて聴いて見たまえ。ところが、これは哲学一般の話でもあるのだが、ニーチェが言うところの問題提起、倫理学そのものへの問いがここでも欠けている。倫理学の体系に触れようとするときの議論の誘導や、善悪の彼岸についての議論は、ゼウスを中心とした神々の世界の掟にたどり着くよう道筋を立てている。おそらく、当時の常識的なものだ。支配層からの監視がそうさせたのか、最初からこうだったのかは知らない。いずれにせよ、エピクトテスの言う自由は、当時の常識的な掟に縛られる。もちろん悪徳からも逃れなければならない。いやむしろ、エピクトテスの言うところによれば、進んで神々を模範としなければならないし、悪徳からは距離を置かなければならない(王権なんてどうでもいいのだ)。なぜなら、それこそが意思のあるべき姿だから。そのためには意思そのものの探究と鍛練が必要なのだ、哲学をするとは、意思の探究と鍛錬を言うのであり、あるべき姿、エピクトテスの言うところの自然本性にしたがって生きる事を目的とした実践的な意思の練磨なのだ。


 あとがきに海外の自己啓発本での引用回数の多い哲学者のひとりにエピクトテスがいるらしい。悪い冗談だと思った。しかし、いかにも自己啓発本で一発当て用とたくらむ連中の考えそうなことだとも思った。最高善は、意思の自由であり、贅沢や出世とは俗世の争いに過ぎない、夢を追おう! 禁欲生活を実践しよう! 奴隷哲学者エピクトテスはこんなことを言っている! まぁ、そんな所だ。なんとなく偉大な感じのするラテン語哲学の印象にいくらでものっかるがよろしい。稼ぎも細く、出世の道もないような人たちの中ではびこる逃避的精神主義は、金もかからず、徳が高いことを周囲にアピールしたい、選良たちを資本主義の犬どもと見下したいかなり醜い下心とよく調和しエスカレートさせるのだ。この世の終わりまでベストセラーであり続けよ。


 エピクトテスはたまに本音を言う(こう言うところは『自省録』の作者と違って人間味があっていいと思う)。彼は、哲学生活を実践したいという若者たちに対し、自由になるとは、俗世の誘惑をすべて断ち、あの時代にあって故郷を遠く離れた場所で報われることのない精神の鍛錬を続けることなのだ、と。哲学とは、逃れられない人間の悪しき部分との生涯をかけた戦いなのだと。次の問いを常に胸に抱いて。


 自分の心に現れたことならなんでもしたがう人たちは何と呼ばれるだろうか。

「気が違っている人です」

 われわれがしていることはこれとは別だろうか。

エピクトテス(國方栄二 訳)著『人生談美』164頁